The Gats!

The Gats!  1966
[物語:M.B.ゴフスタイン 絵:M.B.ゴフスタイン]

The Gats! /あの子たち!2020
[物語:M.B.ゴフスタイン 絵:M.B.ゴフスタイン 訳:トンカチ]

あらすじ

砂漠の向こうからやってきた「あの子たち」は、自分の居場所を探している。踊ったり、ころんだり、食べたりしながら、ずっと居場所を探している。自分の場所は簡単には見つからないけど、「あの子たち」は全然へこたれない!

 

 

この本について

Making of「あの子たち!」

この本はゴフスタインが26歳の時に出版した人生初の絵本だ。彼女の多くの作品は日本で出版されているが、この本は一度も出版されなかった。手に入れて読んだら、なるほど、出版されていなかった理由がわかる気がした。わけがわからない生き物の集団が主人公で、彼女の絵本にある心温まるシーンや、深い洞察力にあふれたシーンは控えめで(そう見えた)、何だか実験映画のような絵本だった。出版社さんがこの本に「引いた」理由はそこにあるのかも知れない。でも、よく見ると、ここには紛れもないゴフスタイン節が地下水のように流れていて、推敲に推敲を重ねたと思える「線」があった。全ての作家の最初の作品には、その人の全ての予兆が詰まっている、と言われるが、この本の中にも、この後すぐに花開く彼女の才能が全て潜んでいる。

 

私たちは駆け出しの新人絵本作家ゴフスタインの、気負いと、夢の大きさと、そしてそれに押しつぶされそうになる繊細さ、それを押し返すタフネスを、この本に感じることができる。まだ世間という出口に向かって、からだ半分しか出きっていない、老成しつつ未熟な、26歳の女の子が目に浮かぶ。これは青春の本だ。私達はゴフスタインの本を出していくことを決めて、新しい読者に届けると決めたんだから、やっぱりこれは出さなければならないでしょ。逃げたらダメでしょ。ということで、この本を出版することになった。ゴフスタインにとって最初の本は、私たちにとって最初のゴフスタインとなった。

 

翻訳は、我々トンカチの社内でおこなった。翻訳のプロの方にもアドバイスをいただいて、ここはちょっと、という指摘をいただきながら、あえてそのままで通した部分も多い。たとえばover the sandを、「砂漠を超えて」とは訳したくなくて「砂を超えて」と訳した。砂漠と言いたくなかった。そこに「砂」があれば、それは砂漠でも砂丘でもよかったし、本当は「砂の惑星」であるべきだと思った。またlooking for a homeも、どうしても「ホームを探して」と「ホーム」という言葉を使いたかった。「ホーム」という言葉の持つ、ヒップホップ感とゲーム感、老人ホームに象徴される死の場所感を出したかったのだ。だってこれは、青春の本だから。そしてゴフスタインの本はいつでも「死」についての本だから。

 

これらは「正しくない」のだが、日本語版を作るということは、どうしたってオリジナルとは違うものを作ることになるから、それは譜面を見て演奏をし直すことに近い。1966年の演奏と2021年の演奏は違うはずだし、プレイヤーは新しく解釈しなければならない。良い悪いは聞く人が決めることだ。私達は未熟なプレイヤーなのでヘタだが、その「未熟」にどう「共鳴」してもらえるのかが目指すべきことかもしれない。

 

判型も大きく変えた。手を加えないオリジナル英語版の復刻も同時におこなうことで、日本語版の「改悪」や「冒涜」かも知れない行為については大目にみてください、という立場をとった。ゴフスタインさんに怒られるかもと思いながら、この本を作った。でも、許してください。少し黙って見ていてください。だってこの本は、私たちにとっても「青春」なんです。

 

ゴフスタインの夫であるデビッドさんは、全面的に私たちに自由をくれた。彼が愛としての自由を与えてくれなかったら、私たちはきっとグレていたと思う。ありがとう。

 

トンカチ